大阪地方裁判所 昭和41年(わ)3582号 判決 1968年12月13日
本店所在地
大阪市東区豊後町二五番地の五
天竜商事株式会社
右代表者
平沼義雄こと 尹守孝
旧本籍
韓国慶尚南道咸安郡伽椰面倹岩里九五八番地
住居
大阪市東区糸屋町二丁目三一番地
天竜商事株式会社
代表取締役
平沼義雄こと 尹守孝
昭和四年三月一二日生
右被告会社並びに被告人に対する法人税法違反被告事件、被告人に対する贈賄被告事件につき、当裁判所は検察官北守出席の上審理を遂げ、次のとおり判決する。
主文
被告会社天竜商事株式会社を罰金二、四〇〇、〇〇円に処する。
被告人尹守孝を懲役六月及び罰金一〇〇、〇〇〇円に処する。
但し、被告人尹守孝につき、この裁判確定の日から二年間、右懲役刑の執行を猶予する。
被告人尹守孝が右罰金を完納できないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。
押収してあるゴルフクラブ一二本(昭和四三年押第二七三号の一及び二)を被告人尹守孝から没収する。
理由
(罪となるべき事実)
第一、被告会社天竜商事株式会社は、大阪市東区豊後町二五番地の五に本店を置き、パチンコ遊技業を営なむ資本金七〇〇、〇〇〇円の株式会社であり、被告人平沼義雄こと尹守孝は被告会社天竜商事株式会社の代表取締役として、その業務全般を統括しているものであるが、同被告人は右被告会社の業務に関し、法人税を免れる目的をもつて公表経理から売上収入の一部を除外するなどの不正な方法によつて所得を秘匿した上、右被告会社につき
一、昭和三七年七月一日から同三八年六月三〇日までの事業年度において、同会社の実際の所得金額が二四、五七三、六二八円で、これに対する法人税額が九、二三七、九六〇円であるのに拘らず、公表経理上右所得金額中二二、二六五、一七八円を秘匿した上、同三八年八月三一日、所轄の大阪市東区東税務所において、同署長に対し右事業年度分の所得金額が二、三〇八、四五〇円で、これに対する法人税額が七七七、一九〇円である旨、所得金額等を過少に虚偽記載した法人税確定申告書を提出し、右秘匿金額に対応する法人税八、四六〇、七七〇円を所定の納付期限を経過しても納付せず、もつて不正行為により右同額の同年度分の法人税を免れ
二、同三八年七月一日から同三九年六月三〇日までの事業年度において、同会社の実際の所得金額が二一、五二一、四四七円で、これに対する法人税額が八、〇二八、一三〇円であるのに拘らず、公表経理上右所得金額中一一、五二四、九八一円を秘匿した上、同三九年八月三一日、前記東税務所において、同署長に対し、右事業年度分の所得金額が九、九九六、四六六六円で、これに対する法人税額が三、六四八、六五〇円である旨、所得金額等を過少に虚偽記載した法人税確定申告書を提出し、右秘匿金額に対応する法人税四、三七九、四八〇円を所定の納付期限を経過しても納付せず、もつて不正行為により右同額の同年度分の法人税を免れ
第二、被告人平沼義雄こと尹守孝は
一、同三九年一一月上旬頃、大阪市北区堂島上二丁目一五番地クラブ「セブンセブン」前路上において、法務省大阪入国管理事務所に入国警備官として勤務し、外国人の出入国及び在留に関する違反事件の調査、出国勧告に関する事務、収容令書又は退去強制令書の執行、退去強制事由に該当すると思料される者についての通報に関する事務等の職務を行つていた桑波田安二郎に対し、韓国より不法入国した被告人の実弟尹渭孝の違反調査について、便宜有利な取扱いを受けたい趣旨のもとに現金二〇、〇〇〇円を供与し
二、法務省大阪入国管理事務所に入国警備官として勤務し、外国人の出入国及び在留に関する違反事件の調査、逃亡者等の調査、収容令書又は退去強制令書の執行等の職務を行つていた山脇俊幸に対し、
1 同四〇年八月中頃、肩書被告人方において、前記尹渭孝の違反調査について便宜有利な取扱いを受けたことの謝礼及び将来も同様便宜有利な取扱いを受けたい趣旨のもとに、舶来ゴルフクラブ一セツト(昭和四三年押第二三七号の一及び二、時価納五〇、〇〇〇円相当)を供与し
2 同年九月二〇日頃、同市南区河原町一、五三六番地朝鮮料理店「食道園」において、右同趣旨のもとに現金一〇、〇〇〇円を供与し
三、右同日、同区笠屋町九番地バー「一番」において法務省大阪入国管理事務所に入国審査官として勤務し、外国人の出入国及び在留に関する違反事件の審査、認定、認定通知、放免書及び放免証明書の作成等の職務を行つていた橋本曽次に対し、前記尹守孝の違反審査等に関し、便宜有利な取扱いを受けたい趣旨のもとに山脇俊幸を介して現金五、〇〇〇円を供与し
たものである。
(証拠の標目)
判示第一事実全部につき
一、大阪法務局登記官作成の会社登記簿謄本
一、大西政吉、平沼こと尹章考(昭和四〇年七月九日付)、岩本こと趙乙岩(同日、同月二八日付)、葉山繁太郎こと尹赫孝の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一、浦田林一、横田恭明、大村武司、窪田政文の検査官に対する各供述調書
一、倉富一夫作成の「現金預金有価証券等現在高検査てん末書」と題する書面
一、被告人作成の同年五月一八日付上申書
一、高谷定男、上志喜八郎(同年三月二二日付)、古玉寿郎、朝銀大阪信用組合、荒野相玉各作成の各確認書
一山上秀雄他一名(四通)、山上秀雄他二名、山上秀雄、福山寛他四名、福山寛他二名各作成の各調査書
一、押収してある源泉徴収簿一綴(同四二年押第六四四号の八)、会社会議録等一綴(同号の一二)、本店営業部禀議書綴一綴(同号の一九)、印鑑三四個(同号の二一及び二二)
一、被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書一四通及び検察官に対する同四一年八月六日付、二三日付各供述調書
判示第一の一、の事実につき
一、水野清作成の証明書(同三八年八月三一日申告分)
一、山上秀雄作成の脱税額計算書(自同三七年七月一日至同三八年六月三〇日分)
一、石丸輝夫こと徐戌煥(二通)、西田弘の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一、石丸十太こと徐奇煥、西田弘各作成の供述書
一、村上治作成の回答書
一、神林祥熹(同四〇年三月一二日付)、阿部正各作成の各確認書
一、押収してある総勘定元帳一冊(前同号の一)、福徳相互銀行勘定帳一冊(同号の四)、諸勘定帳一冊(同号の七)源泉徴収簿綴一綴(同号の一一)、不動産関係書類三綴(同号の一五、一六及び一八)、保存登記申請書一綴(同号の一七)
判示第一の二、の事実につき
一、水野清作成の証明書(同三九年八月三一日申告分)
一、山上秀雄作成の脱税額計算書(自同三八年七月一日至同三九年六月三〇日分)
一、足立忠一の大蔵事務官に対する質問てん末書
一、足立千代子他一名、神林祥熹(同四〇年一月二五日付)各作成の各確認書
一、岡村巌作成の供述書
一、押収してある総勘定元帳一冊(前同号の二)、元帳一冊(同号の三)、福徳相互銀行勘定帳(同号の五)、三和銀行勘定帳(同号の六)、メモ一枚(同号の九)、源泉徴収書綴一綴(同号の一〇)、不動産権利証書一綴(同号の一三)、不動産売買契約書一綴(同号の一四)、集金カード一冊(同号の二〇)、不動産売買契約書一通(同号の二三)
判示第二の一、の事実につき(被告人桑波田らの被告事件をAグループと略称する)
一、古川園重利の司法警察職員及び検察官に対する各供述調書
一、同人作成の「出入国管理令及び大阪入国管理事務所の機構及び事務分掌の説明について」「桑波田安二郎にかかる事務分掌等の送付について」「桑波田安二郎の事務分掌について」と題する各書面
一、宮本隼人の司法警察職員に対する供述調書
一、司法警察職員作成の「贈収賄事件の供応及び金銭受授場所について捜査復命」と題する書面(同四一年八月五日付)
一、桑波田安二郎の検察官に対する同四一年七月八日、同月九日、八月六日付各供述調書
一、Aグループ第五回公判調書中同人の供述部分
一、被告人の検察官に対する同月五日(五項まであるもの)、一六日付(三丁のもの)各供述調書抄本
一、Aグループ第五回公判調書中被告人の供述部分
判示第二の二、三、の事実につき(被告人山脇らの被告事件をCグループ、同橋本らの被告事件をFグループと略称する)
一、被告人の当公判廷(Cグープル第七回公判)における供述
判示第二の二、の事実全部につき
一、古川園重利の検察官に対する供述調書謄本(Cグループ)
一、同人作成の「出入国管理令及び大阪入国管理事務所の機構及び事務分掌の説明について」(Cグループ謄本)「山脇俊幸にかかる事務分掌等の送付について」と題する各書面
一、山脇俊幸の司法警察職員(同年八月一六日付)、検察官(同月一一日(抄本)、一六日付)に対する各供述調書
一、Cグループ第六回公判調書中同人の供述部分
一、被告人の検察官に対する同月一六日付供述調書(九丁のもの)
判示第二の二、の1の事実につき
一、押収してあるゴルフクラブ一二本(同四三年押第二三七号の一及び二)
一、山脇俊幸の検察官に対する同四一年八月一二日付供述調書抄本
一、被告人の司法警察職員(同月四日付)、検察官(同月五日付抄本八項まであるもの)に対する各供述調書
判示第二の二、の2の事実につき
一、岸流スミ子の司法警察職員に対する同月一一日付供述調書
一、被告人の司法警察職員に対する同月六日付供述調書
判示第二の三、の事実につき
一、古川園重利の検察官に対する供述調書謄本(Fグループ)
一、同人作成の「出入国管理令及び大阪入国管理事務所の機構及び事務分掌の説明について」(Fグループ謄本)「橋本曽次にかかる事務分掌等の送付について」と題する各書面
一、司法警察員作成の「収賄場所の確認捜査結果について復命」と題する書面(同月一三日付)
一、橋本曽次の司法警察職員(同月一七日、九月二日付)、検察官(同年八月一八日、九月九日付)に対する各供述調書
一、Fグループ第六回公判調書中同人の供述部分
一、山脇俊幸の検察官に対する同月二〇日付供述調書抄本
一、被告人の検察官に対する同年八月一六日付供述調書謄本(一〇丁のもの)
(法令の適用)
被告会社天竜商事株式会社の判示第一の一、及び二、の各所為は、いずれも昭和四〇年法律第三四号附則一九条により、同法による改正前の法人税法五一条一項、四八条一項に該当するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罰金額を合算し、その金額の範囲内で被告会社天竜商事株式会社を罰金二、四〇〇〇〇〇円に処する。
被告人尹守孝の判示第一の各所為は、いずれも昭和四〇年法律第三四号附則一九条により、同法による改正前の法人税法四八条一項に、判示第二の各所為はいずれも刑法一九八条一項(一九七条一項前段)罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するところ、判示第一の各罪につき所定刑中いずれも懲役刑を選択し、判示第二の各罪につき所定刑中いずれも罰金刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条一項本文によりこれを右懲役刑と併科することとし、同条二項により各所定罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人尹守孝を懲役六月及び罰金一〇〇、〇〇〇円に処し、情状により右懲役刑につき同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間執行を猶予することとし、同被告人が右罰金を完納できないときは同法一八条を適用して、金五〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置し、押収してあるゴルフクラブ一二本(同四三年押第二三七号の一及び二)は、判示第二の二、の1の罪により山脇俊幸に供与した賄路であつて、その後被告人尹守孝が山脇俊幸から返還を受けたものであるから、同法一九七条の五前段により、これを被告人伊守孝から没収することとする。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松浦秀寿 裁判官 黒田直行 裁判官 中根勝士)